九連と梢がてんやわんやしていた頃、長女かごめは神社の常連、三毛猫のゲルマニウムと戯れつつ昼食を食べていた。 「はむはむ……今日は心なしか暑いのう」 「ふにゅぅ」 間の抜けた声をごろごろと鳴らすゲルマニウム。 天狗のうちわを模した緑色の扇子で自分をあおいでから、お腹を出してリラックスしている彼もあおいでやり、かごめは微笑する。 「むふふ。そなた少し痩せたのでは? ゲル殿」 「ふにゅにゅう」 「ほほ、そうかそうか。今日もゲル殿はかわゆいのじゃ」 「にゃ〜」 それは、葛餅家のほのぼのとした昼のよくある一場面。 ゲルマニウムの柏餅のようにやわらかいお腹を撫でながら、かごめはふと、空を見上げた。 「……ふむ」 視線の向こう側には、どす黒い悪雲が立ち込めている。 それは、この時期にはよく見られる積乱雲などと分類される形の雲だった。 別にそれ自体はどうってことはない。 しかし、かごめは何故かその雲に強い怨念を感じた。 雲に向ける視線をわずかに細めたその時。 「……!」 ぽふり、と自分の太ももに何かやわらかいものが乗った。 「ふにゃあ」 「むほほ。ゲル殿そこに手を出してはいかんのじゃ」 何を想像したのかは不明だが、かごめはいやんとゲルマニウムの毛むくじゃらの小さな手を優しくどけた。 そして、張りのある肉球をふにふにと押してやる。 「ほれほれ〜」 「ふにゅ〜」 一人と一匹は、相も変わらず戯れを続けたのだった。