沈黙がいたたまれなくなった九連は、姉の整った横顔を見ながら弱々しい声でつぶやいた。 「俺は梢を記憶の中で改ざんし過ぎていたのかもしれないな……」 「なぁに、少々行動力と我が強くなっただけじゃ。それに、アイツの場合弱すぎる自我は致命的じゃて、必然と言えるのだろうな」 「……ぁあ、そうだったよな」 言われて九連は思い出す。小学校に通い始めた頃の幼い梢は、初めて多くの見知らぬ他人と共に生活するという状況に置かれてたびたび心を病んでしまっていた。それは当時、彼女が自らの持つ能力である読心がうまく制御出来ずに――――言い換えれば自我が弱いために他人の思考が次々と流れ込んでくるということが起きていたからなのだが。そんな梢を、兄である九連はよく励ましていたのだ。 部屋に一人で閉じこもり、誰にも会いたくないと言って聞かない彼女に、九連は優しい心で語りかけてやったものだった。 だから、今の姿はある意味頼もしい。少々己の危機を感じたものの、梢の高校生活はきっと楽しいものになっているだろう。そう思いながら、彼はしばらくぶりの我が家に足を踏み入れたのだった。 ◯ 我が家の内部が特に変わっていない事を確認しながら、九連はしばらくぶりの自分の部屋へとやってきた。元々部屋に私物を溜め込んでいなかったため、必要最低限の物資が寮へと移動した結果この部屋はモデルルームのようにすっからかんである。 さて、リュックサックを置いて開いておみやげを取り出す。それは父母のために買ってきたもではなく、梢に買ってきたものだ。ちなみにかごめには会った時にネコ耳(ソフト脱着式タイプ)渡しておいたが、箱に入れたままで中身も開けてからのお楽しみと言ってあるので、今頃歓喜の涙をじゃーじゃー流しているだろう。 「さてと、もう時間じゃん。別に指定されたわけじゃないけど」 家についてから30分ほどが立っている。そろそろ梢の部屋で精神洗浄を受けにいく頃だと自分で決めて、九連は立ち上がった。 梢の部屋は隣である。 彼は静かに部屋を出た。 ◯ 「入るぞ、梢」 ドアノブを回し、ゆっくりと扉を開けながら九連は言う。小脇に梢に買ってきたお土産を抱えながら。この家ではノックという概念は無く、声が聞こえるように少し扉を開けて入る意志を伝えるのが暗黙のルールなのだ。一応怒られに来たのだから、声にはそれなりの反省色をにじませている。 が、そこには意外な光景が広がったいた。 意外かつ、懐かしくもあり、そしてあまり見たくない光景。 「……どうした? 梢」 「…………」 ――――梢は部屋の端っこで体操座りをしていたのだ。